里親候補のカップルさんが見えた。
一目で分かった。
こんなに寒い日の夕方に、待合室に入るでもなく、 キョロキョロしていたから。
私は、声をかけようと思った。
でも、気づかないフリをして通り過ぎて、待合室に入ってしまった。
もう少し、スーキーと一緒にいたかったから。
ごめんなさい…。
昨日の夜、みんなで寝た時のことをふと思い出しながら、待合室から外を覗いてみた。
と同時に、仲人役の猫ボラさんが到着。
彼女の案内で、カップルさんたちも待合室に入ってきた。
挨拶もそこそこ、猫ボラさんが私が背負ってきたリュックから、 スーちゃんを出す。
いつも通り、おとなしくしているけど、今日はちょっと緊張気味。
一目スーちゃんを見た瞬間から、「かわいー!」の声。
あの、最新模様を見ても、「これなら迷子になってもすぐわかるね!」と笑い飛ばしてくれた。
その反応を見て、猫ボラさんの話も勢いに乗ってくる。
良かったね、とってもスーちゃんのことをかわいがってくれそうな人で。
嬉しい気持ちの反面、話の流れの速さにとまどい、頭の中が真っ白になってきた。
一方、普段どんな人にも大人しく抱かれているスーちゃんだけど、
今日は私の緊張感を感じ取ったのか、いつもと何かが違うと思ったらしく、
しきりと身をよじり(スーちゃんにしてはってくらいで、実際、他の猫に比べたら大人しい)、
短い腕を精一杯伸ばして私の方へ来ようとする。
里親さんの腕から私の腕に戻ってきたスーちゃんは安心したのか、
毛づくろいを初め、周りを見渡し、ご機嫌で喉を鳴らしている。
横で犬同士がケンカしててもどこ吹く風。
私を頼りきったそのいじらしさに、また喉の奥がギューッとしめつけられて熱くなる。
いろんな話をしたけれど、正直、上の空だった。
いつの間にか、診察の順番が回ってきた。
もう一度、最後にレントゲンを撮ってもらう。
スーちゃん、実は大腿骨以外にも、足首、ヒザの骨も折れていたのだが、
先生もびっくりするくらい“不幸中の幸い”の連続で、
うまく稼動するような位置を損傷していて、
このまま回復していけば、手術の必要もないとのこと。
里親さんは熱心に先生の話に耳を傾けている。
骨折の箇所が当初より多かったし、また目も結膜炎が出掛かっていたが、
それでも里親になりたいという。
本当にありがたいと思った。
猫ボラさんが、そこで、
「Suseさん次第だけど、時間を置いても辛くなるだけだから、
今日、これから里親候補さんのお宅を訪問して飼育条件とか確認して、
そのままお引渡しにしたいんだけど、良い?」と切り出された。
そういうこともあろうかと思っていたけど、いざ直面すると、
「そうですね、よろしくお願いします。」と答える声が震えてしまう。
一生懸命、スーちゃんがどんなものを食べて、どんな猫砂を使っていて、
どんな風に犬たちと遊んでいたか話す。
ふと、会話が途切れた時に、里親候補さんから
「これだけかわいがってたら、手放すの止めました、と言われると思ってました。」と言われる。
飼えたら飼いたかった。
こんなに一心に慕ってくれるんだもの、放せるわけがない。
でも、うちにいたら、いつまでもスーちゃんは日陰者。
やっぱり、家族全員から愛されて、望まれる場所でのびのびと暮らしてほしい。
涙、涙だけど、より幸せになれることを信じてお別れします。
猫ボラさんの車にみんなで乗り込んだ。
里親候補さんの家は、病院から車で5分以内。
そして、着いた先は、なんと!!
ボス犬の幼なじみの住んでいるマンション、しかも、彼女の部屋の真上の階。
その犬友だちがマンションの理事をやっているので、
そこのマンションがペットOKなのはもちろん知っていた。
こんな偶然ってあるだろうか。
スーちゃんは、本当に何という幸運の持ち主なんだろう!!
しかも、そこは、去年まで私たちが住んでいたマンションから徒歩3分ほどの距離。
なにかこう、恐ろしいくらい運命ってものを感じた。
さて、部屋に通していただいて、スーちゃんをフリーにした。
しかし、私の足元から離れない。
ちょっと歩いては「おかあちゃ〜ん!」と戻ってくる。
泣きそうになったけど、ぐっとこらえて、スーちゃんから離れる。
そんなスーちゃんを、彼氏さんがヒョイッと腕に抱きあげた。
彼氏さん、会ってからほとんど一言もしゃべらない。
でも、私とスーちゃんを気遣ってくださって、そっとスーちゃんを抱いたまま、
その腕を私の方へ近づけて、お別れをさせてくださっているのが伝わってきた。
スーちゃん、良かったね。
今度は優しいパパもできたね。
良かったね、スーちゃん、本当に良かったね。
泣かないように、泣かないように、ギュッと奥歯を噛締める。
猫ボラさんが、里親さんに、
「1〜2日は預りさんを恋しがって夜鳴きすると思います。
この子は本当に小さいうちから一緒にいたし、
あれだけ甘えん坊だから、もうちょっと鳴くかもしれません。
でも、すぐに馴れますから、長い目で見てあげてください。」 と言っていた。
それを聞いたら、胸が苦しくなった。
里親さんがこう言ってくれた。
「ずっとスーちゃんって私たちも呼んでいたから、名前はこのままスーキーにします。」
ありがとう!
本当に、ありがとう!!
挨拶もそこそこ、玄関を出た。
エレベーターのボタンを押した途端、号泣。
猫ボラさんと別れ、彼女を紹介してくれた友達に報告し、 夫と一緒にとんかつ屋へ。
とんかつ屋で、また号泣。
車の中で、爪を切りに来てくれた友達に電話しながら、 二人で号泣。
家に帰ってきた。
スーちゃんがいない部屋。
まさか、そのまま別れると思わなかった。
片付けは明日にしようかと思ったが、気持ちが張っているうちに、 一気に片付けた。
黒犬が来た。
スーちゃんを一生懸命探している。
メタルラックの、スーちゃんが気に入っていたかごの中の秘密基地。
いつものかくれんぼだと思って、
楽しそうに尻尾を振りながら鼻を突っ込んでスーちゃんを捜している。
見つからなくて、あちこち鼻を突っ込んでは私を振り返り、
「どこにいるんだろうね?」と言わんばかりに首をかしげている。
私、また号泣。
夫が飛んできて、黒犬に 「もう良いんだよ、こっちおいで。」といって、2階に連れて行った。
でも、すぐにその手を振り切って戻ってきて、スーちゃんを探し出す。
スーちゃんはどんな夜を過ごしたんだろうか…。
ひとりぼっちじゃないって、嬉しくて、はしゃいで、またオールナイトしてるのかな。
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